パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「おお、勇者……」

「九条椿姫です」

「凄い爆発だった。破滅の魔法を使ったのか」

 私の名前などどうでもいいように、王子は話を進めます。まあ私も王子の名前などどうでもいいのでお相子でしょうか。

「魔法など使っていませんよ。ただこのゴミ袋を投げただけです」

「……恐ろしい兵器だな。防御魔法をかけたこの服でなければ体が消し炭になっていたところだ」

 顔を顰めながら王子は身を起こしました。しかし糸が切れた人形のように、すぐに瓦礫に身を沈めました。

「どこか痛みますか」

「あの爆発に巻き込まれて痛まない場所などあるか。……全身だ」

「それはすみません。……私は無傷のようなのですが」

「ふむ……。見たところ、その服にはかなり強力な防御魔法がかけてあるから、そのおかげじゃないのか」

「このなんの変哲もないワンピースとエプロンに防御魔法ですか。そんなものをかけた覚えはないのですが」

「ふん、国一番の魔法使いであるこの俺が召喚した勇者だぞ。それくらいの装備はついているだろう」

「つまり、貴方は有能な魔法使いであると。この私をチートキャラにするほどの」

「チート? なんだかよく分からんが、そういうことだ」

「そうですか。では何故、私を召喚する前にご自分でなんとかしなかったのですか。それほど有能な魔法使いならば、ここから脱出することなど容易かったのではないですか?」

 そう言うと、王子は黙ってしまいました。

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