パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 微笑みながらそう声をかけると、ボサボサの髪をふわりと揺らした貴臣さんが、突然、はっとしたような顔で私を見つめた後、ほんのりと頬を染めながら胸の辺りを手で押さえました。

「う……ううっ……」

 唸りながらその場に崩れ落ちる貴臣さん。

「ど、どうしました?」

 私は慌ててしゃがみ、貴臣さんの顔を覗き込みました。眉間に深く皺を寄せ、苦悶に満ちた顔をしています。

「う、胸が、胸が、痛い」

「胸が!?」

 まさか心臓発作でも起こしたのでしょうか。まだ二十代の貴臣さんが心臓発作だなんて。どうしましょう、私、この年で未亡人になってしまうのですか。

「貴臣さん、しっかりしてください。大丈夫ですか、救急車ですか」

 必死になって声をかけると、貴臣さんは更に苦しみながら言いました。

「む、胸が、苦しいっ……ま、まさか、これが」

 貴臣さんはくわっと目を見開き、私の肩を強く掴みました。

「これが、恋!?」


 真剣な目で私を見つめる貴臣さん。

 ポカンと口を開ける私。


 しばらくそのまま時間が流れ、7時を告げる鳩時計がポッポーと平和に鳴き始めました。

「……貴臣さん」

 私はにっこりと笑顔になり。立ち上がって貴臣さんの頭に踵落としを喰らわせました。

「朝から余計な心配をさせないでください」

「すみません。嫁がかわいすぎてトキメいちゃったんです」

 貴臣さんは床に這い蹲りながら謝ってきました。

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