パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「王子、ヘタれている場合ではありません。逃げますよ」

「しかし、お前が全速で走っても追いつかれるぞ!」

「ですから、浮遊の魔法を唱えてください。そして私が爆発の魔法を唱えますから、それで鳥よりも速く飛んで逃げるのです」

「そ、そうか、そんなことが出来るか!」

「いえ、出来るかどうか知りませんけれどね」

「いいからやるぞ! あっ、いや、待て、駄目だ!」

「何故です?」

「このまま魔王を引き連れるようにして逃げれば、前線基地にいる兵たちが危ない。延いては辺境の村人たちが……」

「……」

 王子が王子らしいことを言っています。

 私は少し感動しました。

 この方、ヘタレでもちゃんと王子様なのですね。

「わかりました。やりましょう」

 私は王子を放り出すと、高速で飛んでくる魔王と向き合いました。いつも貴臣さんを殴っているときのように、中指を少し出して拳を握り締めます。

「や、やるのか」

 王子が彷徨い歩くがしゃどくろのように、歯をガチガチさせています。

「貴方が護るべき多くの民のために、やりましょう」

「そ、そうだな、俺の民のために、やろう」

 そう言いながらも、王子はへっぴり腰でヨロヨロしているだけで動きません。そうしているうちに魔王が私たちの頭上に到着です。到着早々、その手に巨大な黒い陽炎を作り出し、私たち目掛けて振り下ろしました。

「王子!」

 赤ベコみたいに頭をカクカクさせることしか出来ない王子の手を引っ張り、力強く地面を蹴りました。

 本気で跳んだら30メートルはいけました。またまたビックリです。

< 33 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop