パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 王子の国の人たちに迷惑がかからないよう、魔王城へ引き返すつもりで飛びました。……その、つもりだったのですが。

 何故か私たちは、真上へと飛んでいきます。

「あら、あら?」

 王子を掴んでいない方の手を揺らしたり、水平にしたりしてみますが、真っ直ぐに宇宙を目指して飛んでいきます。

 下の方で魔王が放った陽炎が大爆発している音が聞こえました。ですがそれを確認する余裕がありません。何しろ物凄い勢いで真っ直ぐ上空へ飛んでいますから、かかる重力が凄くて首が動かないのです。

 鳥を追い越し、雲を付きぬけ。

 このままでは宇宙に飛び出てしまいます。さすがに酸素なしでは生きていられないでしょう。一旦魔法を切ってみますか。

 足の裏から出ている火を消すイメージで、魔法を止めてみました。ちゃんとうまく出来たようです。推進力を失った私たちは、頭から真っ逆さまに落ちていきました。

「あら、あら?」

 私たちは物凄い勢いで落ちていきます。推進力がなくなったのですから当たり前ですね。どうやら王子も完全に気絶してしまったようですし。

 雲の中へ突っ込んだ後は、穴だらけの平原がみるみるうちに近づいてきました。

 このまま頭から突っ込んだら、八つ墓村のようになって死ぬのでしょうか。あらいやだ、どうしましょう。そうだ、もう一度爆発の魔法を足から灯せば、また飛ぶことが出来ますね。

「ろけっとー、噴射ー!」

 先程と同じように呪文を唱えたら、ちゃんと足から火が噴きました。そして私たちは、一直線に地面に向かって突っ込んでいきました。

 いけません、これではただ加速しただけです。これは自滅でしょうか。

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