パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 それから何事もなかったかのように一階に下りてきた高臣さんは、テーブルに並んだ朝食を見て笑顔になりました。

「うわー、パンに魚かー」

「駄目でしたか」

「いや、うん、別にいいよ、いいけどね……」

 高臣さんは何か言いたそうにしていましたが、笑顔で静かにテーブルにつきました。そうして一緒に朝食を食べます。

「うん、美味い!」

 まずは好物のフレンチトーストを一口食べ、貴臣さんはにこおっと可愛らしく微笑みました。

 身長も高くてキリリと引き締まった体躯、いかにもスポーツマンな顔立ちと髪型の貴臣さんですが、笑うと子どもみたいに可愛らしくなります。大型のワンコみたいです。

「このジャム、もしかして手作り?」

「いえ、市販品です」

「……そ、そうか。うん、でも美味い。フレンチトーストに良く合ってる」

「貴臣さんは市販品と手作りの区別がつきませんねぇ。先日もパスタのソース、手抜きして市販品にしたのに気づきませんでしたし」

「うぐっ。……お、俺は料理人じゃないから、そんな細かいところには気づかないんだ」

「私が愛情を込めて作ったものくらいは、分かって欲しいものです」

「うん、気をつける……」

 私の指摘に、貴臣さんの表情が曇りました。大型ワンコの耳と尻尾が力なく萎んでいくのが見えるようです。でも私はもうひとつ、言いたいことがあるのでした。

「それに、私を見て心臓が飛び跳ねるほど可愛いと思ってくださるのは嬉しいのですが、どのあたりを可愛いと思ってくださっているのでしょう」

 そう質問すると、大型ワンコの耳と尻尾が復活しました。

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