パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「今日は中華か。おいしそうだな」

 椅子に座ると、椿姫が白いご飯を装ってくれた。

「今日もお仕事お疲れ様でした」

 良く冷えたビールをかわいい妻に注いでもらうことに幸福感を噛み締め、互いに今日の出来事を報告しあう。

 すると、妻が摩訶不思議なことを言い出した。

「今日ゴミを出しに行きましたら、異世界に召還されたのです」

「異世界?」

 はてな? と首を傾げる。

 椿姫は時々意味不明な喩え方をするから、これもそうなのだろうと話を促す。

「そこには魔王に捕らわれた王子様がいまして、私、王子様と一緒に魔王と戦ってきたんですよ」

「魔王ってのはどんなのだ?」

「そうですねぇ……全身真っ黒でしたね」

 全身真っ黒でゴミ置き場に出現するヤツ。

 ……そうか、ゴキブリだな! ゴキブリと戦ってきたのか、妻よ!

 男勝りで豪胆なところのある椿姫だけれど、彼女は虫が大嫌いだ。クモやらゴキブリを見ると「きゃー」と悲鳴を上げるんだ。そして俺に助けを求めてくるんだ。実を言うと俺も虫は大嫌いだが、かわいい妻に頼られたら情けない姿なんて見せられない。

 退治した後に「貴臣さん、大好き」と言ってくれる椿姫の笑顔がかわいいから、頑張っちゃうよ、俺。

 
 そうか、大嫌いなゴキブリの名前を口にするのも嫌だから『魔王』などと。

 ふむふむ、理解したぞ。

「すると王子様はなんだろうな?」

「魔法の国の王子様だそうですよ。とても綺麗な方でしたけれど、ちょっとヘタレでしたねぇ。いざというときに魔法が使えなくて、本当に役立たずでした」

「魔法……ふむ、魔法?」

 魔法とはなんの喩えだろう。

 殺虫剤のことか?

 殺虫剤がうまく噴霧出来なくて役立たずだったのか?

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