パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「でも不思議なことに、異世界人補正とでも言うのでしょうか。私、とっても強かったんです」

「ほう?」

「なんと、持っていたゴミ袋が核爆弾のような威力を発揮したのです」

「ゴミ袋が核爆弾!?」

 そりゃゴキブリからすればゴミ袋は巨大だろうな、うん。

「おかげでうまいこと牢を脱出することが出来ました。そこから私は、爆発の影響で白目を剥いてしまった王子様を担いでスタコラサッサと逃げたのです」

「頑張ったんだな……」

「はい。でもそこに、魔王が手下を引き連れて大勢現れたのです」

「それは怖かっただろう。大丈夫だったのか?」

「はい。もうひとつのゴミ袋をえいと投げましたら、大半は吹き飛びました」

 生ゴミの圧力に屈したんだな。ふむふむ。

 頷きながら椿姫の話を神妙な面持ちで聞く。

「でも魔王はとても強くてですね。多彩な攻撃を繰り出してきたのです。特に空中からの攻撃は強力でした」

「ああ、飛ばれるとビックリするもんな。あれは心臓に悪いな」

「ええ、その通りです。ビックリするくらい速くて。私ももうこれまでかと、一瞬心の中で遺書を書きましたよ」

「そこまで追い詰められたのか!」

「ええ。でも諦めませんでした。無事に帰って貴臣さんの顔を見るまでは死ねませんから」

 胸に迫る言葉だ。

 思わずテーブルの上に置かれていた椿姫の手を取り、この細くて小さな手で大嫌いな虫と戦ってきたのか……と愛しく思った。

 そこで椿姫が首を捻る。

「貴臣さん。鳥のように飛ぶにはどうしたら良いのでしょう」

「は?」

 また急に話が変わったな。

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