パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「何度やってもスペースシャトルの打ち上げのようになってしまって。鳥のように自由に空を飛びたいのですが」

 今度は何の話だろう。

 よく分からんが、空の飛び方について少し考えてみる。

「そうだな、揚力が必要だと思うけど。飛行機が飛ぶときみたいに、機体の下よりも上の方の空気の流れを速くすると上向きの力が生まれると思う」

「つまり、風の流れを体の上下で変えなければならないと」

「そういうことかな。難しいことはちゃんと調べてみないと分からないけど」

「成程、そういうことでしたか。流石は貴臣さんです。物知りですね」

 椿姫がキラキラした目で俺を見ている。むふふ、ちょっとだけ自尊心が満たされた。

「それで、魔王はどうなったんだ?」

 ズレた話の軌道を戻してやると、椿姫はポン、と手を叩いた。

「ええ、大丈夫です。魔王には見事打ち勝ちましたよ。そして王子の城にいた兵士たちに出迎えられました」

「兵士?」

 それはなんのことだろう?

 ゴキブリを退治すると言えば……害虫駆除の業者か!

「それは頼もしい仲間がいたものだな」

「ええ。私もほっとしましたよ。王子も目を覚まして復活しましたしね」

 おお、殺虫剤復活したのか。良かったな!

「そういうわけで、王子様を救出した御礼に、この食料や宝石をいただいてきたのです」

「そうだったのか……よく頑張ったな」

 妻の苦労話に涙を零しそうになりながら、テーブルの上のご馳走、そして椿姫が立ち上がって持ってきた小物入れにゴロゴロ入った宝石たちを眺めた。

 やけに珍しい食材ばかりだけど、班長の香川さんの奥さんあたりに頂いたものだろうか。ゴミ集積所の掃除を取り仕切っているのは班長だからな。その手伝いをして、これを頂いてきたのか。

 旦那さん、この間ブラジル支社に出張に行ってたらしいし、きっとそっちで採れる食材なんだろう。

 宝石はレプリカだとは思うけど、香川さん、太っ腹だな。さすがは紫のガウンで外を歩ける度量の持ち主だ。

< 44 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop