パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「それで、貴臣さん。少し相談があるのです」

「なんだい?」

「私、パートに出ようと思うのです」

「魔王の話から何故にその話へ!?」

「ええ……その魔王がですね、まだ魔法の国を狙っているらしいのです」

「ああ、そりゃ……生命力の強いヤツラだからなぁ……簡単には倒れないよな」

「良くご存知ですね、さすが貴臣さん。そういうわけで、私、王子様と一緒に魔王退治をしようと思いまして」

 ゴキブリ退治を!? なんでまたそんな嫌いな生き物と戦うことにしたんだ!

 驚いて目を丸くしていると、妻はいつもの静かな口調で説明を始めた。

「とても時給がいいのです」

 ……な、なるほど。確かに、害虫駆除なんて大変そうだもんな。その分給料もいいのかもしれないが……。

「……どれくらい働きたいんだ?」

「貴臣さんがお仕事に行った後から出勤しまして、遅くても3時までには帰らせていただこうと思っています」

「椿姫はそこで働きたいのか?」

「そうですね……今後のことを考えますと、収入は多いほうが良いかと思っています。これから新しい家族が増えたりしますと、食費なんかも増えますし。もしかしたら引越しも考えないといけないかもしれませんしね。それに、貴臣さん、車を欲しがっていましたよね。私が働けば、少しは足しになるでしょうから」

「なんと……俺のことも考えて……」

 じーん、と胸が熱くなる。

 そうだな……。

 2人だけだったら俺の給料だけでやっていけるけど、これから家族が増えるわけだし。貯蓄額を増やすのはいいことだよな。

 それに、椿姫も家の中ばかりにいたのでは息が詰まるだろうし。車があれば出かける範囲も広がりそうだしな。うん、ちょっとワクワクしてきた。

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