パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「分かった。椿姫がそうしたいのなら反対はしないよ」

「ありがとうございます」

「でも相手は魔王なんだろう? 無理しないで、駄目だと思ったら他の人に任せるんだよ?」

「ええ、分かりました。貴臣さん、ありがとうございます。私、ちゃんと元気にこの家に帰ってきますからね……」

 にっこりと愛らしく微笑む妻に、俺は胸きゅん。

 ちゃんと未来のことを見据え、そして俺のことも考えてくれる優しい妻への愛が膨れ上がる!

「じゃあさっそく、新しい家族を増やすかあああー!」

 と、テーブルを乗り越えて妻に飛びかかろうとしたら。

 中高一本拳が頬を鋭く抉り、俺の体は真後ろに吹っ飛んだ。

「あらあら、いけませんよ。まだ食事中ですからね」

 相変わらずキレのあるいいパンチを浴びせた妻は、床に転がる俺に「冷めないうちに食べてくださいね」と優しく声をかけてくれた。

 俺は一日に何度拳やら蹴りやらを受け止めればいいのだろうか。

 でもいいんだ。だってこれも椿姫の愛情なんだから。

 床に転がりながら彼女を見上げると、椿姫はパッと俺から視線を外した。その横顔を見て思わず笑みが漏れる。

 黒髪をかけた耳が、愛らしく桃色に染まっていた。






─おわり─





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