び×び
ダンスミュージックがガタガタ鳴り響く薄暗い店内。
私は特別室みたいな、個室客席に案内された。
VIP席じゃん。ラッキー。
「おねーちゃんカワイーからサービスっ」
そう言いながらわざとらしく私にロックを差し出した。
「ホスト初めて?ではないよね?多分。でもこの店は初めてだろうからサービスサービス。みんなには内緒ね♡」
でた。
" みんなには内緒ね "
これホストとキャバの定番の落とし文句。
私もよく使う。
私は普段仕事で飲んでるから、こんなの慣れてるんだよねー。
でも私は、この男を試してみたかった。
だから、
『ホストは初めてですよ。これ、ロックですか?私お酒弱いのにっ』
なんていうの?子犬系?イメージしてみた。笑
いかにも、クラブとかキャバとか、そういう夜系には興味ありません、みたいなキャラで。
ちょっとイカつめのOL気取りで飲む。
まぁ、酔い具合まで演じれるほどではないんだけどさ…
「けっこーグイグイいくねぇ」
男の顔が近づいた。
私はキョドってみる。
恥ずかしいフリをする。
「おれ、きみみたいな子タイプかも」
営業文句。
こいつ新人か?
さっきからありきたりなことしか言ってない気がするけど。
『えっほんとですか?うれしいっ♡』
とりあえず相手のいいように演じる。
「LINE交換しようよー」
『いいですよ』
「おれの名前、ナオトね。直る、の直に、人って書いて、直人」
『私、アイリです。あと私今日行かなきゃいけないところがあるので失礼しますねっ』
「え?こんな時間からどこ行くの〜?まさか、彼氏?」
『なんでそうなるんですかっ笑。私彼氏なんていませんよ』
「あっらー、もったいねぇ。じゃあLINEするねー!」
『だから、誰かになって欲しいんですよね〜笑。はい、じゃあまた』
そう言って、店を出た。
私なりにうまい演技だった気がする。
最後の言葉はちょっとしたアピール。
あれ、なんで私アピールなんてしてんた?
まぁいいか、と歩き始めた時、一件新着メッセージが鳴った。
「よー(^O^)さっきの、直人でーす。アイリちゃんほんとかわいいよねー。今度遊びたいなー」
フッ。
こいつ、楽しいかも。