片恋。
……心ちゃんだ。
「心⁈どうして…」
優の慌てた声が聞こえた。
ふっと心ちゃんが顔を上げて微笑む。
「…優にあいたくて」
「そんな…わざわざこっちに来なくても、俺がそっちに行ったのに…」
優の優しい声。
「ふふ。ごめんね」
にこにこと囁くように話す心ちゃん。
その瞬間、優の手が心ちゃんの小さな体を強く抱きしめた。
「心…」
心ちゃんは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って優の背中に自分の腕をまわす。
どくんっ…
私の心臓が大きく揺れた。
体全体がこわばって、見たくないのに目をそらせない。
…抱き合ってるだけだよ。
キスもしてないじゃん。
ほら。
よく見てよ、私。
やっぱだめ。
見ちゃだめ。
まともに見たら、私が壊れる。
慣れてたはずなのに。
しばらく2人のこういうところを見てなかっただけで。
初めて2人が付き合っていることを知った時みたいに、とてつもなく息が苦しくなる。
大丈夫、だから。
前から知ってたことでしょ?
こんなにも2人は愛し合ってるってことなんて。
落ちつけ、私。
深呼吸を何度も繰り返す。
「あのね、こころ、優に話したいこといっぱいあるの」
「俺もいっぱいある。心のお気に入りのカフェ行くか?そこでいっぱい話をしよう」
「やったぁ!こころ、楽しみにしとくね!」
ふわりと笑う心ちゃん。
私の胸が、またつきんと痛む。
「…じゃあ、今日の7時ぐらいに心ん家向かいに行くからな!そっから歩いてこーぜ」
「うんっ ありがとぉ…じゃあ、ママのこと待たせてるから、また後でね」
心ちゃんが指さした校門のもう少し先に、白い車が1台止まっている。
運転席に心ちゃんのママが乗っているのを見つけた。