手のなかにキミ
「奈緒はよく頑張ってるよ」
柔らかな彼の声は温かく、私の体を満たしていく。
昼休みが終わってすぐに呼び出されて、やっと緊張が解けた頃。ほっとして心も体も心地よくなって、ここではないどこかへと飛び立ってしまいそう。
いや、完全に飛び立てる。
彼にもたれ掛かった手が熱を持ってくるのがわかる。重くなった瞼が少しずつ閉まってくるけれど、もう引き止めることなんてできない。
せっかく上げた顔が、再び腕の中へと沈んでいく。
もう、行っちゃうよ……
まさに飛び立とうとする私を、聞き慣れた音が引き止めた。
なんてタイミングの悪い電話なんだろう。
こんな時に電話をかけてくるのはもしや?
嫌な予感いっぱいで怠い頭を上げると、電話のディスプレイには見たくなかった内線番号がはっきりと表示されている。
憎き天敵め、まだ何か言い足りないらしい。
「奈緒、負けるな、僕がついてる」
彼の声に押されて、私は受話器へと手を伸ばした。
私はまだまだ、戦える。
ー 完 ー
“オフィスの擬人化★Prince”
彼=マウス