悲しみに、こんにちは4


ハル君のことを考えると
胸が締め付けられる。

それでも、考えずにはいられない。
17年間、彼のそばにいたんだ。


ハル君との思い出は あちこちに転がってるんだもの、ね。


例えば、私の部屋。
ダッフルコートのとなりにかかっているお気に入りの緑のマフラー。
5年前、私がまだ13歳のころ。

高校生のハル君が私に買ってくれた、誕生日プレゼント。


「ちょっと、大人っぽいよ。私、まだ中学生だよ。」


「お前みたいなお子様にはなあ、これくらいのマフラーがいいんだよ。」



ハル君の長い腕で、私の首に緑色のマフラーを掛ける。

「そこらへんで適当に選んだやつだ。安モンだ。」



うそだ。
最近、注目のブランドのマフラーだ。
ここら辺にはショップがないから
取り寄せないと手に入らない。

しかも、ハル君の月5千円のお小遣いと同じくらいの値段がするはずだ。

ハル君よ、今月どうやって乗り切るんだ?



「……うん、お前ばやっぱり緑が似合うよ。」



当の本人は、100均で売ってそうな安っぽいボロボロのマフラーをしている。



「お前、ほんとは緑、好きだろ?」


「……。」




「隠していても、わかるんだよ。オレには。」



ハル君はなんでも知っている。


「でも、隠しとけよな。
オレだけが知ってればいい。」



私の喜ばせ方も傷つけ方も、全て知っている。
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