悲しみに、こんにちは4
「おい、ユズ、起きてるか?」
部屋のドアがいきなり開いた。
「……ノックぐらいしてよ!信じらんない、着替え中だったらどうするの!!」
彼は断りもなく、部屋にずかずかと入って
ベットでゴロゴロする私に近づく。
ほんと、勘弁して欲しい。
年頃のレディなんですけど。
「お前の貧相な胸で立つかよ。」
「ちょっ!下ネタ禁止!!」
ベットから起き上がる私のとなりに
許可なく座る。
……信じられない。人のベットに勝手に座る男。……
「……おい、これどうした?」
彼は気づく。
私の首にかけられるそれに。
「……貰ったの、入家君に。」
ふーん、なんて言いながら、彼は私の首のそれを弄る
全く興味無さげに、弄ぶ。
「……だから、珍しく、お前もタートルネックの服なんか着てんだ……」
「……。」
そう、入家 皐月は知らなかったんだ。
「これ、誕生日プレゼントのつもりか?」
彼はそれを手にしながら、
「ひでぇなあ、こりゃあ。」
「知らなかったのよ、仕方ないよ。」
そう、入家 皐月 は知らない。
「……エメラルド……。」
「そう、でもセンスはいいでしょ?」
ネックレスはすごく素敵。これは本心。
ただ……。
「エメラルドの意味、ユズは知ってるのか?」
時刻は夜の9時。部屋には男と女。二人きり。
「……教えてくれたよ。」
「なんて?」
彼は私を弄ぶ。
「…………絆を深める。」
私の言葉を聞いた彼は
くっくっくと肩を震わせて笑う。
これが彼の笑い方。
私にうつった笑い方。
「……それだけか?」
「……どういうこと?」
「そりゃあ、お前にはそう言うよなあ?」
「……他にも意味があるの?」
私は知らなかった。
ハル君と入家君の間に何があったのか。
私は知らなかったのだ。
「これはなぁ、オレに対する挑発なんだよ。」
あの日、あの映画館の帰りに2人に何があったのか、知らなかった。
「……エメラルドにはなぁ、《魔除け》って意味があるんだよ。」
そして私は知らない。ハル君の言葉の意味を。
「悪魔はいったいどっちなんだろうなぁ?」
「どっちって?」
「俺か? 入家 皐月か?」
ハル君の本性を私は知らなかった。