魅惑の口づけ
憧れていたバンカーの仲間入りをして早6年。学ぶことに必死で、あっという間に時間も過ぎていた。
先輩と後輩の間に挟まれ、若くもなければ能力と経験もまだ乏しい。しかし、銀行員にとっては正念場の時期でもある。
そこで引き起こした今日の大失敗。——このところ、向いてないのかもしれないと感じることばかりだ。
「そっか。ま、ひと息つけ」
やっぱり耳に心地よい声音で、今日も同じセリフを言うと、項垂れていた私の唇にそっと触れてくる。
いつだってそう。ぶっきらぼうで、愛想も良くはない。だけど、彼はどんな時でも“変わらない”。
甘さと苦さを併せ持つ彼の、そんな真っ直ぐなところに惹かれている。