魅惑の口づけ
だから、彼の良さを知った日から、我慢の限界が訪れる前に助けを求めに来ていた。
そう、私にとってここは、本部に異動してからの唯一の安住の地だ。
「泣くなら今のうち。どうする?」
「……今日は甘くない?」
キュッ、と温かい彼のことを握りながら首を傾げた。すると、フッと小さく笑われてしまう。
「俺はその時に応じて変えてるけど?」
「え、基本は酷薄だよね」
「すべては、弥生(やよい)の気分次第だ」
ほんの少しの恥ずかしさを滲ませながら言われると、ついつい頬も緩んでしまう。……ああもう、どこまで人の心を上昇させる気なの?
渇ききった咥内をもっと潤して貰いたいし、弱音しか吐けない今はどっぷり慰めても欲しいのに……。
「もう、これ以上中毒にさせないでよ」
「だったら、俺の作戦は成功したってことだ」
「え?」
「つまり、俺はお前の味方ってこと。……いつも傍にいるから、安心しろ」
「……うん、ありがと」
まだお客様のお怒りが沈まるわけもない。そう、私が顧客側であったら、と考えればそれも至極当然のことだ。