誰か私の話を聞いてください
仕事を辞めようと思ってるわけじゃない。
解決策を提案してほしかったわけじゃない。
私の何が悪いのか指摘してほしかったわけじゃない。

そんなことは自分が一番よく分かってる。


ただ、こんな風に黙って話を聞いてほしかっただけなの。


「......ありがとう。
優しいね、私の彼氏とは大違い」


もう浮気しちゃおうかな、いやこの際のりかえちゃおうか。

だって、ただ黙って話を聞いてくれて、不思議な安心感と包容力のある、こんなにいいおとこなんてめったにいない。

あんな冷たい彼氏なんて......。


「それなら、俺にしとく?」

「えっ......」


心の中でこっそり浮気を考えていただけに、タイムリーな魅力的なお誘いにドキッとした。

本気で言ってるの?それとも......。

いつもはおだやかなカレの初めて見る男の表情に、やけに胸がドキドキする。


そんな揺れ動いている気持ちを引き戻すかのように、スカートのポケットの中のスマホが着信を告げ、はっと現実に戻った。


「ほら、彼からメールじゃない?
見てみたら?」

「う、うん」


そう言ったカレの顔はさっきまでの男の顔ではなく、いつものおだやかな顔に戻っていた。

さっきのはやっぱり冗談だったのかな。
残念なような、ほっとしたような。

複雑な気持ちでカレに言われるがままに、スマホをチェックする。
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