知らない貴方と、蜜月旅行
そう言うと同時に、扉が閉まった。最後まで二人は、私たちに手を振ってくれていた。


「吏仁、ありがとう…」
「俺はなにもしてねぇよ」
「ううん、また助けてくれたでしょ?」
「そうかぁ?」


また、そうやって知らないふりをするんだから。私は吏仁に、何度も助けてもらってるのに。


「ごめんね」
「なにが」
「昨日、籍入れたのに…私、すぐに答えられなかったから…」
「べつに、気にしてねぇよ」


本当に気にしてない?本当は、傷付いてたりして…なんて、考えてしまう。さっき、私に〝そういう顔はさせない〟って言ってたから、私を悲しませないように、気にしてないって言ってるだけなんじゃないかなって…。


「…っと、なんだよ急に。虫でもいたか?」
「ち、違うよ!ありがとうって、態度で示してるの!」


態度で示すと言っても、ただ吏仁の腕に、ギュッと抱きついただけ…。


「態度で示すなら、あー、やっぱいいや」
「え、なに?言いかけてやめるとか、なし!」
「うるせぇ、ほら着いたぞ」


やっぱり吏仁、おかしい…。今までの吏仁なら、ストレートに言葉を言ってたのに。やっぱり、私を悲しませない為?〝そういう顔〟にさせない為?


「紫月、入るぞ」
「……うん」


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