知らない貴方と、蜜月旅行
「悪い、みんな。手止めれる奴だけ集まってくれるか」
「はい」


吏仁が厨房で少し大きめな声を出すと、数人のコックさんが手を止めて吏仁の前に集まってきた。そして陽悟さんや、他の従業員の方たちも声を掛け合ってパタパタとみんな集まる。


「悪いな。報告だけさせてくれな。妻の紫月だ。たまに俺に会いに来るだろうから、顔覚えてやってくれ。よし、以上!」


それだけ言って、終わらそうとした吏仁。だけど、従業員さんは、まさかの報告にみんな大騒ぎ…。そりゃそうだ、急に〝妻だ〟と言われても簡単には理解できないよ。特に陽悟さんなんか…。


「ちょ、ちょっと待ってください?蒼井さん…」
「あ?」
「いや。あ?…じゃなくて!なんですか、結婚って!説明してください!」
「は?なんで陽悟に説明なんかしなきゃなんねぇんだよ、めんどくせぇ」
「いやいや、おかしいじゃないですか!だって、俺たち会ったのって、クリスマスっすよ!?」


うん、そうだ。クリスマスだ。でもね、陽悟さん…。あまり大きな声で言わないでいただきたい…。ほら、みんな持ち場に戻らずコソコソ話してるでしょ?!


「あぁ、そうだな。でもよ、たった一日。いや、数分、数十分で落ちる恋もあんだろ?」


その、フッと笑った顔が、妙に私の心を掻き立てた。……あれ、おかしいな。なんだろう、この感じ。


不思議に思った時だった。久未がまた小声で私に言ったんだ──


「(紫月…)」
「(え?なに?)」
「(顔、真っ赤…)」
「えぇっ!?そ、そんなことない!!」


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