知らない貴方と、蜜月旅行
全然意味が分からなかった。どうして、やりもしないパチンコ屋さんに、こんな1時間もかけて来たのか。どうして吏仁が緊張した面持ちで、店内に入って行ったのか。この時は、なにも分からなかったんだ。


私もパチンコはやらないけど、2度くらいは入ったことはあった。相手の声が聞こえないくらい、うるさいこの感じ。耳がおかしくなっちゃうんだよね。もう出たいなぁ、と思っていた時だ。吏仁がある人の前に立ち、こう言ったんだ。


「小西亮太さんですよね」


えっ…?りょう、た…?今、亮太って言った?!吏仁の背中で見えなかった目の前の人物。名前を聞いて、おそるおそる背中越しから見ると。


「……亮太…」
「紫月っ!?」


紛れもなく、その人は私を捨てていなくなった元彼……亮太だった。


「時間、作ってもらえますよね?」
「あ……えっと、」
「頼むよ。そうしてくれねぇと、こっちも進められねぇんだよ」
「……外で待っててください。今、行くんで」
「あぁ」


二人の会話は、全部聞こえたわけじゃない。ところどころしか、聞こえなかった。〝時間〟とか〝頼むよ〟とか〝外で〟とか…。


でもそれだけで、分かった気がした。吏仁は本当に亮太を探し出したんだね。そしてきっと、ちゃんと私が亮太ともう一度向き合って、ケリを着ける為に、ここに連れてきてくれたんだね。


「紫月、外出るぞ」
「……うん」


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