知らない貴方と、蜜月旅行
吏仁に手を握られ、来た道を戻っていく。後ろには亮太がいるけど、振り向くことは出来なかった。


「…悪いんだけど、タバコ吸っていいか?」
「う、うん。いいよ」


外に出てすぐ、吏仁はタバコに火をつけた。そういえば吏仁と一緒にいて、二度目かもしれない。吸う姿を見るのは。あの時は家でも吸っていたけど、あれから家で吸うところを見たことがないかも。


「吏仁って、あまりタバコ吸わないの?」
「いや、普通に吸うけど」
「そうなの…?でも私二度目だよ、見るの」
「あー、紫月といる時は吸いたくならねぇから。今は別だけど」
「………」


私といる時は、吸いたくならないって…。それって、なにか理由があるから吸うってことだよね。


そして吏仁は、少し吸ったら満足したのか、落ち着いたのか、まだ吸えるタバコを消した。


「紫月」
「ん?…っ、」


名前を呼ばれたとほぼ同時に落ちてきた、吏仁の久しぶりのキスは、ほんのりタバコの香りが残った…。それは触れるだけで、すぐに離れてしまったけど、私の動揺がハンパなく、言葉すらなにも出てこなかった。


「なにが起こるか、わかんねぇから」
「え…?」
「すげぇ悩んだよ。あいつを探し出すか、このまま紫月が忘れるのを待つか…さ」
「………」
「でも、このままじゃダメだなって思ってよ。俺も腹くくって探偵雇ったら、すぐ見つかった」


吏仁も、たくさん悩んだんだね…。たくさん、苦しめてしまったんだね…。亮太を忘れることができないばっかりに…。


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