知らない貴方と、蜜月旅行
「でも、俺が間違ってたんだ……」
「……今さら」
「紫月に別れも告げないままいなくなって、挙げ句に結婚式もドタキャンして…」
「……そうだよ。急にいなくなって、残されたほうの気持ち、亮太には分からないよ」


あの時のことが、たまに夢にでも出てくるんだ。うなされて、起きた時。隣には吏仁がいて、そのたびに〝大丈夫か?〟って声かけてくれて…。


「本当に悪いと思ってる…。だから、俺たち、やり直さないか?」
「え…?今…なんて、言った、の…?」


やり直さないか、って言った…?嘘だ。こんな展開、予想もしてないっ。


「紫月は、俺の両親に会ったことあったろ?両親に俺が悪魔の囁きのせいで、紫月を手放したことを言ったら、すごく怒られて。あんな良い子はいないって」
「……悪魔のせいじゃなくて、亮太のせいでしょ」


亮太の両親に会ったのは、たった一度だけ。結婚の挨拶じゃなくて、同棲する報告をする時だったかな。優しいご両親だったこと、今でも覚えてる。


「俺も、その後輩の子と何度か食事したり、飯作ってもらったりしたけど、その時に紫月って俺に合ってたんだ…って思ったんだ」
「なにそれ……」
「紫月はさ、和洋中なんでも作ってくれてたろ?でも、その子はさ、和食作れないとか、今日は疲れたから外食にしましょうとか、そんなんばっかでさ、」
「ねぇ、亮太。私のことなんだと思ってるの?私、亮太の家政婦じゃないよ」


なんか聞いてたら、私のこと女と思ってない感じなんだけど…。しかも親に言われて考え直したみたいな、その感じも気に障る…。


「分かってるよ。家政婦だなんて、思ってないよ。ちゃんと女として、見てる」
「…っ、」


そう言ったと同時に手を伸ばしてきて、私の頬を撫でてきた。どうしてかな、嬉しいと思わなかったのは…。


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