知らない貴方と、蜜月旅行
「じゃあ、中で待ってる」
「うん、あとでね」


てっきり私は二人でバージンロードを歩くものだと思っていたのだけれど、吏仁の案だとスタッフの方に聞いて、素直に従うことにした。


「緊張、なされてます?」
「……はい、すごく」
「ふふっ、もうすぐご主人様のお顔見れますからね」


なんだかすごく手に汗をかいていた。心臓もバクバクと音を立て、吐きそうにもなってくる。そんな私の思いとは裏腹に、例のあの曲が流れ、ババンと二つの大きな扉が開いた。


「や、だぁ……」
「紫月、おいで」


そう言って私の名前を呼んだのは、吏仁ではなく、お父さんだった。笑顔で私のほうに手を差し出してくれていて。もう、メイクなんかボロボロだよ…。


だから吏仁は早く出たかったんだね。いくら、今日私たちだけだと知っていても、吏仁は早くみんなに見せてあげたかったんだよね。


それなのに私なんて、アホなことしか考えてない、本当どうしようもない…。


「吏仁くんが、お父さんの夢を叶えてくれたんだよ」


お父さんの腕にそっと手を添えると、そう耳元で言われ、私は泣きながら何度も頷いた。言ってたものね、吏仁。お父さんがこんなに笑顔で喜んでくれるなんて、思ってもいなかったよ…。


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