知らない貴方と、蜜月旅行
「やっぱりな」
「やっぱり、って…」


なにが、やっぱりなのか全然分からない。彼が取り上げた婚姻届。もちろん亮太も書いてあるもんだと思っていた。なのに、亮太が書いてあるはずの場所が空欄だった。


「お前、相手が書くとこ見てなかったわけ?」
「だっ、て…亮太、私が見てると書きづらいから、って…」


そう。亮太は、そう言って、私から婚姻届を取り上げると、カウンターで私に背を向け書き始めた。でもそれは、書いてたフリだったってことを今、知った…。


「こりゃ、最初からお前と結婚する気なかったな」
「そ、そんなことないです!」
「なら、なんで書いてねぇんだよ」
「そ、れは……」


もう亮太が、わからなくなった。プロポーズしてくれた時は、本気だった?いつから、私と離れようと考えていたの…?


って、この男はなにをしてるの?私から奪った婚姻届に、なにか書いて……って、


「ちょっと!?なにしてるんですかっ!?」
「よし、行くぞ」
「はい?行くって、どこにっ、」


突然立ち上がった彼は、婚姻届をお尻ポッケに入れてしまった。これで、もう私は取ることができなくなってしまった…。


そして、どこへ行くか聞かされぬまま、私は彼と一緒にマンションを出ることになった。


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