知らない貴方と、蜜月旅行
そして彼にくっ付き、連れられた場所はマンションの駐車場。その中でも一際目立っていた、白のスポーツカーの前まで来ると助手席を開け、私を見るとアゴで乗れと合図をしてきた。


何様だ、と思いながらも、口にしたところで「いいから乗れ」と言われるのは、なんとなく予想がつく。そう思って、私は素直に助手席に乗ることにした。


「車、運転されるんですね」
「あぁ」
「スポーツカー、好きなんですか?」
「あぁ」


彼が運転する車の横で、無言にならないように必死で会話を見つけて話すも、すべて返ってくる答えは「あぁ」ばかり。それでも諦めずに、話しかけた。


「あの、婚姻届、」
「お前さぁ」
「……はい?」
「そういうの、逃げた男にも言ってたのか」
「そういうの、とは…?」


やっと〝あぁ〟以外の答えが返ってきた!と思ったら、亮太の話だった。横目でチラッと見て、すぐに真正面を向いてしまったけど。そういうの、とは、どういうことなんだろう。


「だからさ、どうでもいいことを無理矢理、話題にするの」
「どうでもいいって!」


どうでもいいとは、なんだ!人がせっかく会話を探して、振ってるのに。


「おもしろくなさそうな顔してんな?」
「そりゃ、そうでしょ?どうでもいいなんてこと言われたら、」
「じゃあ、俺が運転することとか、スポーツカー好きなこととか、聞きたいと思って聞いたのか?」
「…そ、れは」
「ほら、見ろ。どうせ、必死で会話探して、興味もないくせに聞いてきたんだろうが」
「……」


確かに興味はなかった。だって今の私は亮太がどうして、いなくなってしまったとか、明日の式のこととかで、他のことを考える余裕なんかないんだから。


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