知らない貴方と、蜜月旅行
「俺が言いたいことはだな、お前、無理してたんじゃねぇの?」
「は?無理なんか、」
「じゃあ、逃げた男に今のお前みたく会話探して話しかけてなかったんだな?」
「……」


即答で「してない!」とは、言えなかった。亮太は元々、自分からペラペラ喋るような人じゃなかったから、いつも私から話題を振っていた。


会話が切れると、次はなに話そうかと考えてしまっていたのも事実だ。でもだからと言って、無理はしていなかったと思う。


「そういうの疲れねぇか?」
「……」
「だから、俺には気遣うな」
「……」
「話したいと思ったこと、聞きたいと思ったこと、それ以外は無理矢理、話題振んなくてよし」
「……」
「わかったか?紫月(しづき)」
「なっ、私の名前っ…!」


なんで知ってるの!と思ったけど、婚姻届を見られたことを思い出し、口を閉じた。


「なぁ」
「な、なんですか」
「なんであん時、陽悟に名前言いたくなかったんだ?」
「それは…。そっ、そもそも、それは私に本当に聞きたいことなんですか!?」


私にだけ言っといて、自分は話題探してたら、すごい不愉快だもの。だから、ガツンと言ったつもりだったんだけど…。


「お前、やっぱバカだな」
「は?バカって、」
「俺が話題探して話すような奴に見えんのか?」
「……」


どう考えたって、見えない…。どう考えたら、そう見えたのか。数秒前に戻って、やり直したい…。やっぱり私は、バカなのかもしれない。


「で?なんで紫月って、言わなかったんだよ」
「だって…。いつも〝紫月〟って答えたら〝え?なに?〟って、毎回聞かれるから…」
「あー、そういうことか」


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