知らない貴方と、蜜月旅行
それが毎回毎回だから嫌になって、いつからか名前を言いたくなくなっていった。だからって自分の名前が嫌いなわけではないの。ただ、面倒になっていっただけ。


「そういうことなら、俺も一緒だな」
「え、一緒って…?」
「聞きたいか?」


……うわ、この笑み。鼻で笑っちゃって。こういうの、亮太にはなかったなぁ…。


「あの、教えてくれるなら聞きたいです」
「……俺も、聞き取りずれぇ名前なんだよ」
「えっ」


じゃあ、この男(ひと)も毎回聞き返されたりしてたのかな…?私が聞きたいと思ったことは聞いてもいいんだよね。


「あの、名前聞いてもいいですか?っていうか、聞きたいです。聞きたいことは聞いてもいいんですよね?」
「くっ、お前やっぱおもしれぇわ。俺の名前な、吏仁だ。蒼井吏仁」
「り、ひと…」
「ん、聞きづれぇだろ?」
「ううん、素敵な名前…」
「そうかぁ?」


彼…吏仁は、心底嫌そうな顔をしていたけど、やっぱり私には素敵な名前だと思ってしまった。


「よし、着いた。行くぞ」
「え、着いたって…」
「ほら、降りろ」
「いや、でも……ひゃあ!」


着いた場所はなにやら大きな一軒家。そこの駐車場に止めると吏仁は、運転席から降り、助手席のドアを開けた。


そして、私がモタモタしているのが嫌だったのだろう。私の手を掴むと強引に外の世界へと、引っ張られた。


< 34 / 185 >

この作品をシェア

pagetop