知らない貴方と、蜜月旅行
吏仁は、苦しげな笑みを私に向けると、手をキュっと握り、歩き出した。


そして先ほど通ったリビングの前にまで行くと、吏仁はチラッと私を見て「ありがとな」と言った。


そんな吏仁に〝ううん〟と、首を少し横に振ると、吏仁は、少しだけ微笑んで見せた。


「吏仁…!」
「ただいま」


リビングへ入るやいなや、お母さんらしき女性が目を潤ませ吏仁を見た。それに応えた吏仁は、少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしていた。


「あなたが、紫月さんね?」
「あ、はい。初めまして、佐野紫月と申します」
「そう、可愛いお嬢さんね。吏仁には、もったいないくらいだわ」
「いえいえ、とんでもないです…わたしなんか…」


そんなお母さんは私に目線をうつすと、ニッコリ微笑み声をかけてくれた。すごく優しそうな人で、この人が吏仁を産んだとは思えなかった。


「母さん、悪いけど時間ないからさ、またゆっくりコイツと来るわ」
「あ、そうよね!明日沖縄なんでしょ?いいな、お母さんも行きたいわ」
「あぁ、母さんは今度な?」


吏仁は、一緒に行きたいと言うお母さんに呆れた顔をしながらも〝今度な?〟と返していた。そしてお母さんも、目を細めると喜んで頷いていた。


「紫月さん、またいらしてね?」
「あっ、はい。また、是非……」
「紫月さん、吏仁、気を付けてな」
「おぅ。じゃ、またな」


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