知らない貴方と、蜜月旅行
吏仁は、私の手を引っ張ると家を出た。そして、私を助手席に乗らすと、ブォンとマフラーの音を鳴らしながら発進させた。


なんだか、悪いことをした気分だ。病気のお母さんに嘘をついて、もう会うこともないのに、また来ることを口約束でも、してしまったし。


「ねぇ、吏仁…」
「あ?」
「お母さん、喜んでたね」
「あぁ、だろうな」
「でも、騙しちゃった…。なんだか、申し訳ないな…」
「なにが」


なにが、って…。ヒドイ息子!病気のお母さんを騙しといて、あっけらかんとして!それでも息子なの!?


「結婚だってしないのに、するって言っちゃったんだよ?それを知って命が縮まったら、どうするのよ」
「は?お前、なに言ってんの」
「え…?」
「よし、着いた。降りんぞ」
「え、ちょ、待って…!」


全然、意味が分からない。吏仁は大型スーパーの駐車場に車をとめると、先に車から降りてしまった。このまま待ってるわけにもいかず、慌てて私も車を降り吏仁のあとを追いかけた。


「ねぇ、吏仁!」
「紫月、旅行用の鞄とかは?」
「え?いや、ないけど…全部置いてきちゃったし…」
「そうか。ん、わかった」
「いや、ねぇ、待って?」


ねぇ、まさか本気で沖縄に行く気なの…?仕事休むって言ってたし、本気の本気なの…?って、あれ。なんで仕事休むこと、お父さんに言ったんだろう。


「あぁ、もう!ワケわかんない!!」
「おい、こら。急に大声出すなよ。お前、変な目で見られてんぞ」
「だ、だって!吏仁が意味わかんないことするから!」
「ちゃんと帰ったら話すから、な?とりあえず、必要なもん全部揃えるぞ」
「……」


こうやって、たまに私の顔を覗き込んでご機嫌を取るようなこと、やめてほしい…。そんな優しい目で、声で、言われたら何も言えなくなっちゃうんだからっ。


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