知らない貴方と、蜜月旅行
吏仁は黙り込んだ私の手を握ると、婦人服売り場の前に来た。婦人服といっても、30代の私が着そうな落ち着いた印象の洋服が並んでいた。


「いらっしゃいませ」
「あぁ、悪いんだけどさ、明日から沖縄に行くんだ。気候のことも考えて、適当にコイツに合うもの見繕ってくんないかな?」
「あ、はい。かしこまりました」
「こっちで着る服も数着選んでやって。金額は、いくらでもいいわ」
「え、ちょ、吏仁!」
「俺も服、見てくるから。じゃ、よろしくね」


なに、あの金持ちが言うようなセリフは…。金額はいくらでもいい、なんて…。私、お金持ってないんだよ!?なに考えてんだか…。


「お客様、どうぞこちらへ」
「いや、あの、私!」
「普段はスカートとか穿かれますか?」
「い、いえ…。いや、それより!」
「でしたら、こちらのようなロングワンピースなんていかがでしょう?きっと、お似合いになられますよ」


あ、あのぅ…私の話、聞いてます?こりゃ、全然聞いてないな…。担当のお姉さんは、キラキラした笑顔で、どんどん洋服を決めていった。


私はというと、着せ替え人形のように、試着室に入りっぱなし。脱いだり着たりの繰り返しで、正直もうどうでもよくなっていた。





「紫月、終わったか?」
「吏仁……」
「おぅ、えらいグッタリしてんな?」
「…どれだけ、脱いだり着たりしたと思ってんのよ」
「ははっ、まあ、いいだろ。で、お姉さん、いくら?」


颯爽と登場した吏仁は、私の顔を見て笑った。そして、お姉さんに声を掛けると、とんでもない金額が聞こえてきた。


「10着、選んでみたのですが、いかがでしょうか?」
「あぁ、いいよ。で、いくら?」
「79.800円になります」
「うん、じゃあ一括でね」
「はい、かしこまりました」


って!!79.800円!?8万じゃん!!いや、それを一括でって言う吏仁も、10着選んじゃうお姉さんもおかしいから!!


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