知らない貴方と、蜜月旅行
「当日は大変だったな。俺はドタキャンされた側だから、あっちの両親がひたすら謝って、式場の料理やらケーキやら、もう用意されてるだろ?だから、そのキャンセル料が半端じゃねぇ金額でさ」
「あー、そうだよね…」


式場側がかなりバタバタしてて、あの頃には二度と戻りたくねぇな。お義父さんも、お義母さんも謝りっぱなしで、あの姿だけは妙に焼き付いてる。


「原因って、聞いてもいいの…?」
「ん?あぁ、ドタキャンした理由か?」
「うん。答えたくないなら、いいんだけど」
「いや、もう過去のことだし。……好きな奴ができたんだと」
「好きな、人……」


結婚式ドタキャンの翌日、梨々香から電話がきて、明かされたドタキャンの理由に俺は怒る気力もなかった。もう、どうでもよくて『あ、そう』だけ言って電話を切ってやった。


「まぁ、俺にも原因があんだよ」
「原因…?」
「そ。俺さ、ずっと好きなことさせてもらってたわけ。仕事も、相手の人生背負えるくらいの収入稼いでなかったんだ。けど、あいつとの結婚を考えた時に、これじゃあダメだって思ってな。んで、オヤジの会社に就かせてもらったわけ」


けど、最初は右も左も分からないことだらけで、覚えることに必死で梨々香に構ってやれなかった。今思えば、もっと話をして、もっと梨々香の傍にいてやれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


「あとから、友達に聞いたんだけどさ。その好きになった奴に、俺とのことを相談してたらしい。仕事で忙しくて、全然構ってもらえないってさ」
「そっか…」
「俺は、あいつの為に頑張ってたんだけどな」
「……うん」


まぁ、でも今は金もそこそこもらえてるし、あの時頑張ったのはムダではなかったんだが。


「きっとあいつもさ、不安だったんだろうな」
「不安って?」
「俺より3つ年上だったんだよ。だから当時は36だろ?プロポーズはされたけど、いつになったら結婚してくれるんだろう。結婚しても毎日忙しくて、構ってもらえないのかもしれないって、さ」


実際、店を任されるようになって、毎日毎日ただただ忙しくて、多分結婚しても当分の間は同じように、帰りが遅くなって結局うまくいかなかったんだろうな。と、今は思う。


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