知らない貴方と、蜜月旅行
「先に風呂、入ってこい」
「え、でも…」
「なんだ、一緒に入りたいのか」
「やっ、違う!」
「照れんな」
「照れてない!」


私はただ寒いと言ってた吏仁を、先に入れてあげたかっただけなのに…!どうしてこうなるかなっ。


「冗談だ。いいから、行ってこい」
「でも、吏仁寒いって、」
「お前だって寒かったくせに。俺が風呂入れに行った時、クシャミしてたろ」
「え、いや、」
「いいから、ほら。行ってこいよ」


……もうこうなったら、なにを言っても無理な気がする。クシャミをしたのは寒かったからじゃなくて、ただ単に鼻がムズムズして出ただけなんだけど…。こうなったら仕方ない。先に入らせてもらうか。


「……じゃあ、先に入らせてもらうね?」
「あぁ」


なるべく早く上がってこよう。吏仁が風邪を引いてしまったら、大変だ。


私は吏仁から離れると、脱衣所に向かい、着ていたものを全部脱ぎ浴室へと移動した。


「はぁ…。イロイロあったなぁ…。てか、ありすぎた…」


湯船に浸かり、ボソリ独り言。なんかやっと、一息付けたのかな…。仕事をクビになって、婚約者にも逃げられて。酔いつぶれた私を拾ってくれた知らない男と、まさかの新婚旅行。


こんなことってきっと生きてる中でも、稀なことな気がする。実際周りの人で、こんな経験した人に出会ったことがないわけだし。


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