知らない貴方と、蜜月旅行
「あ、吏仁風邪引いちゃう。早く上がってあげなきゃ」


ザブンと風呂から上がり、バスタオルで髪をワシャワシャ乱暴に拭くと吏仁の元へと急いだ。


「吏仁、ごめんねっ。寒かったでしょ、入って!」
「ん?あぁ、ってお前髪乾かさないで出てきたのかよ」
「あっ、大丈夫。こっちでドライヤーするから!」
「ふぅん、そっ。じゃ、行ってくる」
「うんっ、行ってらっしゃい!」


…って、なんか新鮮だ…。〝行ってくる〟に〝行ってらっしゃい〟なんて…。亮太にも言ってたっけ、そういえば。これからは、吏仁に言うのかな。


そんなことを思いながら、ドライヤーを持ち、濡れた髪を乾かす。そして手ぐしで整えた後、久しぶりに携帯を触った。すると、一件のLINEがあり、途端にドクンとする胸。


もしかして、亮太…?と思いながら恐る恐るタップすると、亮太ではない人物にため息が出た。このため息はなんなのか。亮太だったらという期待から違って出たのか、それとも亮太じゃなかったことに安心して、よかったという思いなのか。


〈新婚旅行、楽しんでる?〉


そう送ってきてくれたのは、幼稚園からの幼馴染で親友の久未(くみ)からだった。その瞬間、ジワリと溢れ出る涙。その涙を指で拭うと、指先でゆっくりとタップした。


〈久未には、いろいろ話したいことがあるんだ。旅行から帰ったら会えないかな?〉


多分今言ってしまうと、泣いてしまうし、ちゃんと説明ができない気がして、細かいことを伝えるのはやめた。


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