アルチュール・ド・リッシモン

豪胆公を偲んで

　アルチュールも弟リシャールと共に入城式に参加し、大人しくその儀式を見守っていたが、それが終わるとジャン５世は国王に臣下の礼をとる為にパリに向かった。
　が、アルチュールとリシャールは、亡き豪胆公を偲んで、その遺体に付き添う方を選んだのだった。
「兄上、私達はこれからどうなるのでしょうか？」
　新しくブルゴーニュ公に就任したジャン無畏公に大半の者達がついていき、亡きフィリップ豪胆公の遺体に付き添うのは幼いアルチュールとリシャールの二人だけだったので、不安をそのままリシャールが口にした。
「案ずることは無い」
「ですが兄上、私達はあの新しいブルゴーニュ公に嫌われております」
「そうだな………。フィリップやマルグリットとは、仲が良い方だと思うのだが………」
　アルチュールはジャン無畏公の子供達の名を挙げてそう言うと、ため息をついた。
「では、私達は………」
「心配するな。兄上がいる」
「分かっております。ですが、いつまでもジャン兄上の世話になっているわけにもいかないでしょう？」
「そうだな………。どうすべきか………」
　アルチュールがそう言った時であった。
「此処に居たのか」
　若い男の声がそう言ったのは。
　漆黒の髪に、品のよさそうな笑顔がそこにあった。
「あなたは………？」
「何だ？　私のことをもう忘れたのか？　ベリー公ジャンだ。お前達の兄の叙任式の時に会ったであろう？」
「ああ、そういえば………」
　アルチュールがそう言うと、ベリー公は頷いた。
「あれから４年しか経っておらぬが、そなた達のような子供にとっての４年は大きいな。二人とも、こんなに成長しおって………」
　そう言うと、ベリー公ジャンはアルチュールとリシャールの頭を撫でた。
「どうだ？　わしの所に来んか？」
　ベリー公のその申し出に、アルチュールとリシャールは顔を見合わせた。
「どうやら、ジャンとはうまくいっておらんのだろう？　ならば、わしの所にくればよい」
　そう言うと、白髪混じりの黒髪を上下に揺らし、ベリー公は微笑んだ。
　亡くなったフィリップ豪胆公のような大胆さは感じなかったが、その微笑みは明らかに彼と兄弟であることを告げていた。
「はい………。よろしくお願い致します………」
　アルチュールがそう返事をすると、リシャールも軽く会釈をした。ギュッと兄の袖を掴みながら。
　───この時の判断が正しかったことを、彼らは一年を経ずして知ることとなる。