アルチュール・ド・リッシモン
英雄王の名を持つブリトン人
「何、あの女の息子か!」
「はい。いかが致しますか? やはり、御母君の手前、解放を……」
「いくつだ? まだ子供か?」
リチャード・ド・ボーシャンの言葉を遮るようにヘンリー5世がそう尋ねると、リチャードは首を横に振った。
「いえ、既に20歳の長身の青年のようです」
「20歳で、長身……」
リチャードのその言葉を繰り返すヘンリー5世の顔は、苦虫を噛み潰したようであった。
「どうだ、リチャード。そやつに私が負けると思うか?」
「いいえ。現に、我が軍は圧勝しております。あんなメルランの予言などというたわごとなど、お気になさる必要は無いかと……」
信頼するリチャードのその言葉に、ヘンリー5世の顔は一瞬、勝ち誇った笑みを浮かべた。
が、何故か次の瞬間には不機嫌そうな表情になってしまった。
「いや、やはり連れて行こう……」
「え? イングランドに、でございますか? まさか、兄のブルターニュ公とやらに身代金を要求されるのでございますか?」
「いや、そんなものを送ると言ってきても、受け取らん! それより、見せつけてやるのだ! 私の力をな!」
「陛下……」
メルランの予言にあらがおうとしているからか、それとも義理の母、ジャンヌ・ド・ナヴァールへの嫌がらせか、「アルチュール・ド・リッシモンをイングランドに連れて帰る」というのは既に決定事項で、側近のリチャードが何と言っても変わりそうになかった。
「分かりました……」
リチャードはため息をついてそう言うと、次の王族の捕虜について報告を始めた。
───こうしてアルチュール・ド・リッシモンはイングランドに連行され、ヘンリー5世の傍に置かれることとなったのだった。同じ王宮にいるはずの実の母には一度も会えずに。
「はい。いかが致しますか? やはり、御母君の手前、解放を……」
「いくつだ? まだ子供か?」
リチャード・ド・ボーシャンの言葉を遮るようにヘンリー5世がそう尋ねると、リチャードは首を横に振った。
「いえ、既に20歳の長身の青年のようです」
「20歳で、長身……」
リチャードのその言葉を繰り返すヘンリー5世の顔は、苦虫を噛み潰したようであった。
「どうだ、リチャード。そやつに私が負けると思うか?」
「いいえ。現に、我が軍は圧勝しております。あんなメルランの予言などというたわごとなど、お気になさる必要は無いかと……」
信頼するリチャードのその言葉に、ヘンリー5世の顔は一瞬、勝ち誇った笑みを浮かべた。
が、何故か次の瞬間には不機嫌そうな表情になってしまった。
「いや、やはり連れて行こう……」
「え? イングランドに、でございますか? まさか、兄のブルターニュ公とやらに身代金を要求されるのでございますか?」
「いや、そんなものを送ると言ってきても、受け取らん! それより、見せつけてやるのだ! 私の力をな!」
「陛下……」
メルランの予言にあらがおうとしているからか、それとも義理の母、ジャンヌ・ド・ナヴァールへの嫌がらせか、「アルチュール・ド・リッシモンをイングランドに連れて帰る」というのは既に決定事項で、側近のリチャードが何と言っても変わりそうになかった。
「分かりました……」
リチャードはため息をついてそう言うと、次の王族の捕虜について報告を始めた。
───こうしてアルチュール・ド・リッシモンはイングランドに連行され、ヘンリー5世の傍に置かれることとなったのだった。同じ王宮にいるはずの実の母には一度も会えずに。