アルチュール・ド・リッシモン

領民の反撃

「母上! ご無事ですか?」
 馬のひずめの音がしたかと思うと、筋骨逞しい男が馬で近付いて来た。
「ああ、オリヴィエ! よい所に! 野蛮な者たちに囲まれて、困っていたところだったのよ!」
 マルグリットがそう言いながら、まだ20歳になるかならないかの若者に駆け寄ると、農夫達は顔をしかめた。
「俺達は領主様を捕まえたかどうか聞いただけで、まだ何もしてねぇぜ!」
「そうだ、そうだ! 人聞きの悪い!」
 ムッとした表情の農夫達から庇うようにしてオリヴィエ・ド・ブロワが母を馬に乗せると、彼も負けず劣らず不愉快そうな表情で言った。
「お前達の領主は、じきに私達になるのだ! 無礼なふるまいは許さんぞ!」
「何だって? わしらの領主になる? ってことは、もうジャン様を殺しちまっただか?」
 農夫の一人がそう言いながら馬上の二人ににじり寄ると、流石にオリヴィエもたじろいだ。
 オリヴィエ達は馬上といえど、農夫達はいつの間にか、10人以上は集まってきていた。しかも、皆手に鎌や鍬など武器になりそうな農具を持っていた。
 よってたかって襲われれば、ひとたまりもない──。
 そう思ったオリヴィエの頬を冷や汗が流れ落ちた。
「おい、どうなんだよ!」
 顎鬚を伸ばし、そのせいか少し目つきが悪そうに見える男がそう言ってオリヴィエに近寄ると、彼は手綱を引っ張り、馬を走らせてそこを後にしたのだった。
「チッ、逃げやがったか!」
「追うぞ! ジャン様が生きてるかどうかだけでも確かめねぇとな!」
 男たちはそう言うと、顔を見合わせて頷いた。

「はぁはぁはぁ……。もうここまで来れば、大丈夫でしょう」
 パンティエーブル家のシャントソー城まで来ると、オリヴィエはそう言いながら母を馬から下ろした。
 流石に、母のマルグリット・ド・パンティエーブルも顔が真っ青だった。
「何て乱暴な奴らだったのかしら! いいこと、オリヴィエ。お前がブルターニュを治めることになったら、あのような連中は、さっさと処分なさい!」
「当然です、母上!」
 オリヴィエが頷きながらそう言った時であった。近くからウァーッという声がしたのは。
「何だ? まさか、さっきの奴らが追って来たのか?」
 再び顔を青くしながらオリヴィエがそう言った時、門番らしい身なりの男が転がるようにして駆け込んで来た。
「た、大変です! 城が囲まれております!」
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