アルチュール・ド・リッシモン
結婚式
「ルイ……」
実の両親より自分たちのことを気遣ってくれた文官の名を呼ぶと、ルイはヘンリー5世の前で立ち止まり、カトリーヌの手を握ってこう言った。
「どうか、どうか、末永くお幸せに……。何か、どうしてもということがありましたら、このルイ宛にいつでもご一報下さい」
「ありがとう。そこまで気にかけてくれて、本当に感謝しているわ。あなたも体に気を付けてね」
「はい……。はい!」
そう返事をしながらルイは溢れる涙を拭いつつ、後ろの座席に戻って行った。
「良い侍従であったな」
真っ赤だった髪が激務のせいか、くすんだ栗色のなってきたヘンリー5世がそう言うと、カトリーヌは微笑んだ。
「文官にございます、陛下」
「おや、英語が話せるのか?」
目を丸くするヘンリー5世に、カトリーヌは軽く頷いた。
「陛下とのお話が決まってから勉強を始めましたのであまり話せませんし、修道院で習いましたので、古臭いかもしれません」
「修道院とな?」
「はい。王宮ではなく、ポワシーという小さな村の修道院で育ちましたので、宮廷の作法にも疎うございます。宜しくご指導下さいませ」
「いや、その方が世の好みである。とはいえ、必要なものもあるであろうから、女官に一言申しておこう」
「ありがとうございます」
カトリーヌが素直にそう返事をすると、ヘンリー5世は彼女の隣に並んで、祭壇のむこうのキリスト像を見ながらつぶやいた。
「私は、本当に良い妻をもらったのかもしれんな……」
───この後、ヘンリー5世には荷車4台分の極上ワイン等が贈呈されたのだが、そんなものより若妻に恋しているようだったと記録にも記されている。
だが、そんな状態でも、イングランド国王たるヘンリー5世は休めない。「フランス国王陛下の敵」の居るサンスへと向かったのだった。
実の両親より自分たちのことを気遣ってくれた文官の名を呼ぶと、ルイはヘンリー5世の前で立ち止まり、カトリーヌの手を握ってこう言った。
「どうか、どうか、末永くお幸せに……。何か、どうしてもということがありましたら、このルイ宛にいつでもご一報下さい」
「ありがとう。そこまで気にかけてくれて、本当に感謝しているわ。あなたも体に気を付けてね」
「はい……。はい!」
そう返事をしながらルイは溢れる涙を拭いつつ、後ろの座席に戻って行った。
「良い侍従であったな」
真っ赤だった髪が激務のせいか、くすんだ栗色のなってきたヘンリー5世がそう言うと、カトリーヌは微笑んだ。
「文官にございます、陛下」
「おや、英語が話せるのか?」
目を丸くするヘンリー5世に、カトリーヌは軽く頷いた。
「陛下とのお話が決まってから勉強を始めましたのであまり話せませんし、修道院で習いましたので、古臭いかもしれません」
「修道院とな?」
「はい。王宮ではなく、ポワシーという小さな村の修道院で育ちましたので、宮廷の作法にも疎うございます。宜しくご指導下さいませ」
「いや、その方が世の好みである。とはいえ、必要なものもあるであろうから、女官に一言申しておこう」
「ありがとうございます」
カトリーヌが素直にそう返事をすると、ヘンリー5世は彼女の隣に並んで、祭壇のむこうのキリスト像を見ながらつぶやいた。
「私は、本当に良い妻をもらったのかもしれんな……」
───この後、ヘンリー5世には荷車4台分の極上ワイン等が贈呈されたのだが、そんなものより若妻に恋しているようだったと記録にも記されている。
だが、そんな状態でも、イングランド国王たるヘンリー5世は休めない。「フランス国王陛下の敵」の居るサンスへと向かったのだった。