アルチュール・ド・リッシモン
トロワ条約
ヘンリー5世とカトリーヌ姫の結婚の1か月前、イングランドとフランスの間では、トロワ条約が結ばれていた。
正確に言うと、フランス王シャルル6世とイングランド王ヘンリー5世の間で。
その条約の中でシャルル6世は、自分の息子である王太子シャルルではなく、ヘンリー5世をその継承者として認めて明記している。
『カトリーヌと結婚したことにより、ヘンリーは朕と朕の親愛なる配偶者たる后の息子となった。朕の生存中、彼は朕の領土並びにその理研に触れることはない。
カトリーヌは寡婦となるばあいには、4000エキューないし20万フランの年収をイングランドにおいて受けるであろう。
朕の没後は、フランス王冠と王土は、それに伴う全権利と共に朕の息子たる王ヘンリーおよび彼の継承者に永久に与えられるであろう』
これに対し、実の息子であるはずの王太子シャルルに対しては、とても冷淡な言葉が綴られている。
まず最初に「太子を自称するシャルル」で始まり、『かのシャルルなる者とは、気持ちの上でも現実的にも、和解交渉しないことにおいて、意見一致している』と書かれているのである。
これを読んで、王太子シャルルが絶望し、激怒しなかったとはとても思えない──。
「私は本当にあの女の腹から生まれたのか? そうだとしても、胤(たね)が違う。だから、父上も私を子とすら認めて下さらないということか? だとしたら、私は一体何のためにこの世に生まれてきたのだ!」
そう叫ぶと、シャルルは飲んでいたワインの入っていたグラスを床に投げた。
それは血のように赤い小さな水たまりを床に作ったが、彼は見もしなかった。
この頃、両親からその出征も存在も否定された彼は、唯一の「王太子」という称号すら失って、トロワより南のブールジュという村に逃れ、そこで暮らしていた。
両親だけでなく、先のジャン5世拉致事件もあって、その妻である姉のジャンヌ公爵夫人とも仲たがいしていた。
要するに、王族や貴族の中でも孤立していたのである。
そんな彼を支持していたのは、下級貴族だけだった。
「私は負けんぞ! いつか仕返しをして、目にもの見せてやる! その為にも、こんな所で終わってたまるものか! いや、終わってはならんのだ!」
彼はそう叫ぶと、近くの机にあった紙を拳でぎゅっと丸めた。
正確に言うと、フランス王シャルル6世とイングランド王ヘンリー5世の間で。
その条約の中でシャルル6世は、自分の息子である王太子シャルルではなく、ヘンリー5世をその継承者として認めて明記している。
『カトリーヌと結婚したことにより、ヘンリーは朕と朕の親愛なる配偶者たる后の息子となった。朕の生存中、彼は朕の領土並びにその理研に触れることはない。
カトリーヌは寡婦となるばあいには、4000エキューないし20万フランの年収をイングランドにおいて受けるであろう。
朕の没後は、フランス王冠と王土は、それに伴う全権利と共に朕の息子たる王ヘンリーおよび彼の継承者に永久に与えられるであろう』
これに対し、実の息子であるはずの王太子シャルルに対しては、とても冷淡な言葉が綴られている。
まず最初に「太子を自称するシャルル」で始まり、『かのシャルルなる者とは、気持ちの上でも現実的にも、和解交渉しないことにおいて、意見一致している』と書かれているのである。
これを読んで、王太子シャルルが絶望し、激怒しなかったとはとても思えない──。
「私は本当にあの女の腹から生まれたのか? そうだとしても、胤(たね)が違う。だから、父上も私を子とすら認めて下さらないということか? だとしたら、私は一体何のためにこの世に生まれてきたのだ!」
そう叫ぶと、シャルルは飲んでいたワインの入っていたグラスを床に投げた。
それは血のように赤い小さな水たまりを床に作ったが、彼は見もしなかった。
この頃、両親からその出征も存在も否定された彼は、唯一の「王太子」という称号すら失って、トロワより南のブールジュという村に逃れ、そこで暮らしていた。
両親だけでなく、先のジャン5世拉致事件もあって、その妻である姉のジャンヌ公爵夫人とも仲たがいしていた。
要するに、王族や貴族の中でも孤立していたのである。
そんな彼を支持していたのは、下級貴族だけだった。
「私は負けんぞ! いつか仕返しをして、目にもの見せてやる! その為にも、こんな所で終わってたまるものか! いや、終わってはならんのだ!」
彼はそう叫ぶと、近くの机にあった紙を拳でぎゅっと丸めた。