アルチュール・ド・リッシモン
13章 リッシモン、大元帥に

ヨランド・タラゴン

イングランド軍の快進撃は、フランス王家に連なる者への危機感を煽った。
 1424年のはじめ、アルチュール・ド・リッシモンは兄の治めるブルターニュへ向かった。そこで、シシリー女王ヨランド・タラゴンとシャルル7世の使節の話し合いに参加したのだった。
 アルチュールからすれば、一時期兄ジャン5世を拉致したパンティエーブル母子を裏で操っていたのはシャルル7世を自称する王太子だと睨んでいたのでいい気はしなかったが、シシリー女王ヨランドが絡んでくるとなると、話は別となった。

 ヨランド・タラゴン。
 アラゴン王とフランス貴族バル公ロベール1世の娘の間に生まれた彼女は、長女マリーをシャルル7世を自称する男に嫁がせていた。そこで、子供の財産のメーヌとアンジューを守ろうと動いたのだった。
 そのヨランドの娘マリー・ダンジューとシャルル7世は、2年前の1422年にブールジュで結婚し、1年後には後にルイ11世となる長男が生まれ、現在二人目の子供を身ごもっていた。
「あの子達の為にも、これ以上領地をイングランドにとられるわけにはいきません!」
 40歳となり、横幅もそれなりに大きくなり、栗色だった髪も白くなりつつあったが、眼はまだまだ元気だと言っていた。
「とはいえ、ラ・イールやデュノワ伯では、勇気はあっても略奪が好きで、決して品がいいとは言えません。そんな者達と手を組むのは、危険すぎます!」
 そう言いながら頭を何度も横に振った彼女の脳裏に、今年の初めに見た、栗色の髪の逞しく、余計なことをしゃべらない男の姿が浮かんでいた。
「そういえば、もう一人、若者がおりましたな。確か、ブルターニュ公の弟でしたか?」
「アルチュール・ド・リッシモンですね。長らく、ヘンリー5世の傍に置かれていたという……」
 近くに居た、秘書の役割も兼ねていた侍従がそう言うと、ヨランドは目を輝かせた。
「それはいいわね! 苦労をしてきたでしょうから、無茶や無謀なことはしないでしょう」
「では、早速お呼び致しましょうか? すぐ外におられると思いますので……」
 侍従が木の大きなドアをチラリと見ながらそう言うと、ヨランドは頷いた。
「すぐ呼びなさい。但し、婿殿には知られぬようにな」
「承知致しました」
 白髪の侍従はそう言うと、そっとドアを開けた。
< 60 / 67 >

この作品をシェア

pagetop