アルチュール・ド・リッシモン

グロスター公ハンフリー

 1424年10月20日、自称フランス国王シャルル7世は、パリの王宮にアルチュール・ド・リッシモンを呼び、もてなした。
 そこには彼の兄、ブルターニュ公ジャン5世と妻マルグリットの兄、ブルゴーニュ公フィリップも呼ばれ、その二人にも同じように許可が求められて許可をし、アルチュールに大元帥の証である立派な剣が下賜された。
 見た目は青地に星がついて綺麗だが、飾りでしかない剣であった。
 そんなものでも、国王入場の際はそれを抜いて、国王を先導出来た。いわゆる名誉職とそれを示すものであったのである。

「あのアーサーが大元帥だと? しかも、フランスの? あの裏切り者めが!」
 自慢の黒い巻き毛に最近白いものが混ざってきたベッドフォード公ジョンは、そう言うと目の前の机をドンと叩いた。
 「裏切り者」と言われても、元々リッシモンはフランス人で、ヘンリー5世に捕らわれていただけなので、言いがかりであった。が、頭に血が上ったベッドフォード公にはそんなことすら分からなくなっていた。
「こうなれば、仕方ない。三部会を召集するぞ!」
 彼はそう言うと、本当にイル・ド・フランスとノルマンディーの三部会を召集した。

「兄上」
 白いものが増え、前髪もだいぶ後退してきたとはいえ、まだベッドフォード公の髪は艶やかだった。
 そんな彼の髪より明るい髪の男が、そう言いながら近付いて来た。
 ハンフリー・オブ・ランカスター。
 ベッドフォード公より1歳下の弟で、一般的に「グロスター公」と呼ばれていた。
「おお、ハンフリー! 参ったか!」
「はい。エノー領の件もありましたので」
「ほう。そんなにあの赤毛の女が気に入ったのか?」
 すると、栗色の髪の弟はにやりとした。
「エノー伯領にバイエルン公領まで持っているのですよ。全部手中におさめることが出来れば、儲けものだと思いませんか?」
 弟のその言葉に、兄はため息をついた。
「ふふん、それが目当てというわけか。ということは、あの赤毛の女に熱を上げているというわけではないのだな?」
「当たり前です。美人だとは思いますが、気が強すぎますから」
 そう言うと、ハンフリーは悪びれずに笑った。
「そうか。ならば、よい。共に領土の拡大にあたろうぞ」
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