アルチュール・ド・リッシモン
2章 パリへ

新しい後見人

「うむ、この子達の前でする話ではなかったな」
 三兄弟の澄んだ瞳を前にして、流石に豪胆公がそう言うと、長男のジャン5世が無邪気に尋ねた。
「あの………陛下のお具合はそんなにお悪いのですか?」
 その言葉に、ベリー公ジャンと豪胆公フィリップ豪胆公は顔を見合わせた。
「まぁ、お加減がいい時もあるのでな、直接謁見せねばならない時以外は心配することもあるまい」
「謁見………出来るのですか? クリッソン様は叙任式が無事に終わったら、一度パリまで行って謁見するようにと仰せだったのですが………」
 ジャン5世のその言葉に、再び豪胆公とベリー公は顔を見合わせた。
「いつまでも隠し通せるものでもなし………」
 ベリー公がそう言うと、豪胆公も頷いた。
「そうだな。現実を知っておくというのも良いかもしれんな。これから誰についていくべきかを知る上でも、為にはなるだろうし………」
「ほほう。それは意外なお言葉ですな。てっきり兄上は、あの若造の味方だと思っておりました」
「そんなこと、ある訳なかろう! 実の弟の方が可愛いに決まっておるわ! ただ、今は時期が悪い。それだけのことだ」
 ベリー公ジャンが苦笑しながらそう言うと、豪胆公は頷いた。
「分かりました。では、陛下への謁見は、私が手配致しましょう」
 彼のその言葉に、三兄弟の表情がパッと明るくなった。
「まぁ、そろそろイザベル様もお戻りになられるでしょうし、頃合いとしてはよいだろうな。何かあったら、私も駆けつけよう」
「お願い致しましたぞ、兄上」
「ああ、分かった」
 ベリー公ジャンは微笑みながら頷くと、三兄弟を見て再び微笑んだ後、その場を後にした。
「では、数日中にパリに向かうゆえ、準備をしておきなさい」
「はい」
 長男のジャン5世がそう答えると、弟達も頷いた。
「楽しみですね、兄上。パリの王宮かぁ………。おおきくて、綺麗なんでしょうね」
 憧れの目つきで、どこか宙を見ながらアルチュールがそう言うと、ジャン5世は苦笑した。
「のんきだな、お前は。さっきブルゴーニュ公がおっしゃっていたことを聞いていなかったのか? 陛下は狂っておられる、とのことだぞ」
「狂うって、具体的にはどういうことでしょうか?」
「そ、それは、私にも分からん………」
 そう言いながらも、ジャン5世の脳裏には、自分達を捨ててイングランドに渡った母のことが思い出されていた───。
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