強引同期と恋の駆け引き
それが、私の前髪にふわりと乗っかる。
「なに、してんの?」
「手が疲れた」
「はぁ? だって、もうすぐそこまで来てるよ」
そうこうしているうちに、彼女たちはあと数歩のところまで来ていた。
ほら、と久野に二の腕を掴まれ前に押し出されると、春の柔らかい日射しを受け、キラキラとした眩しい笑顔の戸嶋さんと眼が合った。
「おめでとう!」
言祝ぎと一緒に花びらを精一杯高く空に向けて放つ。
春風を孕んでゆっくりと舞い落ちるそれが、彼女の髪や肩を優しく撫でていった。
「佐智先輩! ブーケトス、絶対に取ってくださいね」
新郎の腕に絡めた腕とは逆に握られた小さなブーケを、振ってみせる。
それを合図にして、未婚の参列者たちが集まり始めた。
色とりどりの衣裳を着たお嬢さま方の荒い鼻息に圧倒されて、またもや最後方へと押しやられたころ、弾んだ掛け声が上がる。
「みなさ~ん、準備はいいですかぁ? いきますよ~!!」
そぅれっ! と、白バラを主体に今日の晴天と同じ色のスカイブルーのリボンで可愛らしくまとめられたブーケが、背中を向けた花嫁の手から宙に放り投げられた。
別に期待していたわけじゃない。
いままでに数え切れない回数の結婚式に出席しても、ただの一度たりとも受け取ったことのないブーケ。
今回だって無理に決まっている。
『この次に幸せな花嫁になれる』
なんていうラッキーアイテムが、自覚もないままに十年近くも恋心をこじらせていたアラサーの元にやってくるなんて思う方がおこがましい。
だけど、リボンをたなびかせて優雅な放物線を描いた花束が、真っ直ぐこちらに向かって落ちてくれば、そんな卑屈な考えもどこかへ吹っ飛んでいて。
爪先立ちで背伸びをし無意識に高みへと伸ばした手は、虚しく宙を掴む。
幸福のお裾分けは、見事な加賀友禅の振り袖を着た娘さんの元へと納まっていた。