強引同期と恋の駆け引き
「そんなにあの花が欲しかったのか?」
予想通りのこととはいえ、肩を落として披露宴会場へと向かう私に「いや、そういうわけじゃないけれど」と、ブーケトスの意味をレクチャーすれば、こちらも予想に違わず鼻で笑われ追討ちをかける。
「女子は大変だな。結婚する方も、呼ばれる方も」
「まぁねぇ。ご祝儀だけじゃなくて、服とかヘアメイクとかの出費もバカにならないし」
そのご祝儀も、回収できる見込みが全くないところが侘しくって。
「だから、少しでも幸せを分けてもらいたくもなるのよね」
思わず口を衝いて出た愚痴に自己嫌悪。
ごまかすように、そういえばと言葉を繋いだ。
「知ってる? 男の人用にもガータートスっていうのがあるの。日本じゃ、あんまりやらないみたいだけど」
「ガーターって、あの脚に着ける?」
「そう。新郎が花嫁のドレスに潜って手を使わずに取るの。それをブーケみたいに投げるんだって」
日本で流行らない理由は、なんとなくわかるけど。
「……なんか、エロいな」
口角を上げた久野に、ぞくりと心臓を撫でられたような気になる。
あんたのその笑みも十分エロいです。
「あ、いたいた。佐智先輩っ! 司会の人が、余興の進行の相談をしたいって探してますよ」
受付をすますと、同じ課の後輩に捕まって引っ張られた。
課の女子一同で行うのは、ありがちな『新婦の取扱説明書』。
あの旦那様のにやけ具合を見たら、こんなものをわざわざ渡さなくても、十分大事に甘やかせてくれそうだけど。
パソコンを駆使して綺麗に作ったファイルの最終確認をして、今日何度目かも忘れたため息をそっと漏らした。