強引同期と恋の駆け引き


わかってるんだ。私がつまらない矜持で口にした、見え透いた嘘だって。
恥ずかしさと同時に、誰に対してかもわからない苛立ちが募る。

「――久野には、関係ないでしょう?」

視線から逃れるように顔を背ければ、長い指が伸びてきて私の頤(おとがい)を捉えた。

「同期の誼で祝電の一つでも贈ってやろうっていうのに、ずいぶんとつれないな」

「そんなもの、要らないわよ。どうせ転勤するんでしょう? これで腐れ縁も途切れることだし」

動かせない顔の代わりに私が睨め上げると、久野は形の良い眉を片方ピクリと跳ねかせ、不遜に顎を反らす。

「ふ~ん。それなら、先に餞別をもらっておこうか」

「はぁ?」

訝しむ顔の横の壁に久野が空いている方の手をつき、顎を掴んでいた指に力が入れられ上を向かされる。

これって噂の『壁ドン』&『顎クイ』!? なんて、感慨にふける間もなく近づいてきた瞳の、男のくせに長い睫毛。
その一本一本が確認できるほど目の前に迫ったと思ったら、唇を掠めていった微かなアルコールの匂いと生暖かい柔らかな感触。

思わず振り上げた手を壁に押さえつけられて。
取り落としたクラッチバッグの口が開き、中身が零れる。

「せめて、目くらい閉じられないのか。まさか初めてってわけでもないだろう?」

そう意地悪く笑んでもう一度寄ってきた久野から力任せに顔を背け、辛うじて自由に動く足のヒールに全体重を乗せ、黒い革靴のつま先を踏みつけた。

「痛っ!!」

束縛の手が緩み、彼の長い腕の中からすり抜け、急いでバッグを拾い上げる。

「信じらんないっ! どういうつもり!?」

顔が、身体が、ほんの一瞬触れただけの唇が熱い。なのに、心はスーッと温度を失っていく。




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