強引同期と恋の駆け引き
「どうせバカにしてるんでしょ? 三十を過ぎた寂しい独り身の女が、そんなに物欲しそうに見えた?」
「はっ? なに言っ……」
「それとも、あれ? どうせもう関わりもなくなるんだから、最後にからかってやろうとかいう、ちっとも笑えない冗談?」
口に任せるまま言い放った言葉に、情けなさがこみ上げてくる。
もっと早くに自分の気持ちを認めていたら。他の女の子たちのように、素直に想いを告げていたのなら。
例え思いが通じることがなくても、こんな無様な別れ際を迎えることはなかったはず。
これが自分を甘やかしてぬるま湯に身を浸していた報いなのかと、まだ熱さの残る唇を噛みしめた。
よほど踏まれた足が痛かったのか、久野は眉間に深い皺を刻んで 私を睨みつけている。
薄い唇が開きなにか言おうとしていたけれど、私はこれ以上その場にいることはできなかった。
だって、目頭までもが熱を持ちはじめていたから。
久野にみっともなく醜態を晒す前に、耳にも心にも蓋をして、逃げるようにすでに人の集まり始めた宴会場へ戻っていった。