強引同期と恋の駆け引き
「はっ!? いい迷惑だな」
苦々しげに肩を竦めた久野に若干同意しつつ、可愛い後輩を擁護する。
「一生に一度のことだし、できるだけ夢は叶いたいじゃない」
「……そんなもんか?」
「そんなもんよ」
入社二年目の彼女。ようやく仕事も覚えてきて、これでやっと指導を任されていた自分の負担が減ると期待していた矢先の寿退社に、私だって思うところがないわけではない。
女も三十を超えると、叶うかどうかもわからない夢より現実に比重を置くようになってしまうのは当然で。
それでもやっぱり、細やかな夢が捨てきれずにいる自分もいる。
そんな自分に自嘲を含んだため息をついて、缶のプルトップを開けた。
コクリと飲み込んだ熱いお汁粉が、十年近くも昔のことを思い出させる。
「久野との腐れ縁も、ここまでみたいだね」
隣の机に腰を預けてブラックの缶コーヒーを呷っていた久野が、切れ長の目にかかるサラサラの前髪を邪魔そうに掻き上げた。
「あぁ、そうだな」
喉を降りていった甘いはずのお汁粉の味が、なぜだかいつまでも苦く私の舌に残った。