強引同期と恋の駆け引き
「独り寂しく北の地へ旅立つ先輩への餞(はなむけ)と考えれば、安いものじゃないか」
「左遷みたいな言い方ですけど、事実上は将来を約束された栄転ですよね? それに、北っていったって……」
「ぶつくさ言っている間に、新しい料理が来たぞ」
口を尖らす佐藤くんを制し顎で示した方へと目を向ければ、艶やかなチョコレートでコーティングを施し、真っ赤な苺がちょこんと乗った小振りのケーキがスタッフの手により運ばれ、すでに女子の山が築かれ始めてる。
「やべぇ! 無くなる。あっ、明日の送別会の料理も期待してますから」
バチンと不格好なウインクを残し、慌ててテーブルに駆けていく佐藤くんを追って、美味しそうなケーキを取りに行こうとした私の腕がグイッと後ろに引かれた。
「おまえ、明日の幹事も引き受けたのか?」
明日の日曜日は久野の送別会がある。連日の宴会はさすがにキツいけど、年度末で他に日程が取れなかったのでしかたがない。
「どっちも出欠と予約を取るだけだし。いつものことよ」
同じ課に長年いれば自然と回ってくる役割だ。それに今回は『久野の』ということもあって、当然のように一任されてしまったし。
幹事の特権で、彼の好きな日本酒を揃えてある店を予約してあった。
「明日は主役なんだから、遅刻しないでちゃんと来てね。盛大に送り出してあげるから」
そそくさと立ち去ろうとした私の目の前に、佐藤くんから強奪した件(くだん)のムースが突きつけられる。
「やる」
「無理矢理もらったんでしょう? 自分で食べなさいよ」
「別に食いたくて取り上げたわけじゃない」
「じゃあ、どうして――」
脳裏に佐藤くんの話が甦る。好きでもないお汁粉と甘いスイーツ。