強引同期と恋の駆け引き
疑問と、ほんの僅かな期待に思考を奪われていると、感情の窺えない声音が喧噪を縫って届いた。
「……のか? おまえの相手って」
「え?」
「こんな人目の多いところでいちゃつかれても、周りが困る」
久野の目線は、女の子たちに混じってスイーツ争奪戦に参戦している佐藤くんに注がれていて。
「そんなこと、してな……」
言いかけて口元を押さえた。もしかして、あれ、見られてた?
「違う! 違うの、あれは不可抗力で」
「いい年して嬉しそうに顔を赤らめておいて、違うもなにもないだろうが。――いい迷惑だ」
唾棄するように言い捨てた久野。私は手に持っていたペンを握り締めていた。
「迷惑してるのはこっちのほうよ」
ゆっくりと見上げた彼の顔が滲んで見える。やだ、こんなのおかしい。
「人の気持ちを上げたり下げたり。おまけに、あんなことまでしてからかって」
グロスが剥がれるのも構わず手の甲で唇を拭い、ぶり返しそうになる熱を散らす。
「あと少しなのに、どうして放っておいてくれないの? もうすぐ、いなくなるくせに」
瞬きしないよう目に力を入れて、高い天井から下がるクリスタルのシャンデリアまで目線を上げた。
「片倉?」
彼には珍しく戸惑いの色が濃く現れた声で呼ばれれば、逆にこちらが戸惑う。
ぎくしゃくと彼に首を戻そうとすると、後ろから華奢な腕が巻き付いてきた。
「佐智せんぱーい! 探しちゃいましたよぉ。もうすぐビンゴが始まります、って」
振り返れば、淡いピンクのドレスに身を包んだ本日の主役の一人がいて、全身から幸せオーラを振りまいていた。