強引同期と恋の駆け引き
№ 5
◇
赤いラメの大きな蝶ネクタイを締め小指を立ててマイクを握っている人も、新郎の大学時代からの友人だという。
異常とも言えるノリの良さに、今ばかりは救われていた。
「なんと見事一番にビンゴになった方には、新郎新婦より、一泊二日のペア温泉宿券が贈呈されま~す! それでは皆さん、AreYouReady?」
「イエ~イ!!」
主に新郎友人の側から声が上がる。手に手にカードを持った視線が私の前にあるガラガラに注がれ、ただ回すだけなのに持ち手を握る手のひらに嫌な汗が滲む。
「では、第一投目~!」
合図に合わせ大きな音を立てて一周させると、ころんと黄色い玉が一つ転がり出る。
「63番です! 開いた方いますかぁ? では、次」
そんな調子が続くの中、私は回すことだけに集中する。端からはまるで、商店街の福引きで一等の金色の玉が出るようにと、念を送っているように見えたかもしれない。
でも、それくらいに気を張っていないとおかしな行動をとってしまいそうなほど、頭の中がグチャグチャだった。
並べられたボールが8個になった時。
「ビンゴ」
会場から決して大きくはないけど、よく通る声が響く。聞き覚えのあるそれに思わず顔を上げると、久野がカードを高く掲げステージに向かってきていた。
大きな拍手とあちこちから上がる落胆の声の中、一番に当たったというのに浮かない面持ちで歩く視線は、真っ直ぐ私に向けられていて。
ステージの上では逃げ場もなく、ただただ俯いていることしかできない。
「おめでとうございまーす! まずは、お名前とおふたりとのご関係をを教えてください」
ご陽気な司会者にマイクを向けられた久野は、さすがにそちらへと顔を向ける。
「新婦の同僚の、久野です」
つっけんどんな口調で答えるも、ポジティブな司会者は彼の左手の薬指を目敏く確認すると意味深に口角を上げた。
「ご同僚の久野さんですね! 失礼ですがご結婚は?」
「……はぁ、まだですが」
毒気に当てられた久野が不承不承といった体で応じる。